「お父さん」
 父の前でそう言うと、私はハイネックのセーターを脱いだ。

 可愛そうな人だった。
 父が全てに失敗し、安アパートに引っ越したのは一ヶ月前だ。
 家財道具といえば、古びれたガスレンジと、古ストーブだけ。私は親戚に
「父についていく」と言うと、皆顔をしかめた。
 
「お前がついてきて来てくれて嬉しいよ」
 ある夜、父にそう言われて胸が詰まった。そして、その表情は穏やかで私は「死」を感じた。
 せめて、何か父に対してしてあげたかったが、私にももう何もなかった。
 寒い夜中、残り少ない灯油が入ったストーブを強く焚いて、私は父に体を差し出した。
 
「お父さん……うっ!」
 父に抱かれながら、神様に謝った。
 体は父の動きに合わせながら、勝手に反応した。神様! と何度も、心の中で叫ぶ。父は背中に手を回しながら、私を気遣った。
……あっ…………
 次第に、何もかも忘れて、背筋を這い登る快楽が訪れた。
「来て……
 最後の瞬間だけ父は激しく動くと、私の中に入ってくる熱さに驚いた。


 行為が終わった後、父は眠りに落ちた。
 体をオレンジ色で照らしているストーブをふと見てみた。小さい頃このストーブでみかんを焼いていたのを覚えている。
 しばらくするとストーブは壊れたのか、灯油のオレンジの火が天井まで届きそうになった。
 最後まで、ありがとう。君のおかげで暖かかったよ。
 そう私はストーブに呟いた。

 END